「へぇ、これがルディーン君が作った、パンケーキってお菓子なのね」
「ううん。生地は僕が作ったけど、これはアマンダさんが焼いたんだよ」
「焼き方もきちんと教わったから、彼が村で作ってるのと変わらないものに仕上がってると思いますわ」
僕が焼いたのを食べた後、残った生地を僕がやったみたいにアマンダさんが焼いてくれたんだよ。
でね、それを持って僕たちはみんなのとこへ帰ってきたんだ。
「それじゃあ早速」
そのパンケーキをみんなの前に置いたら、ルルモアさんがフォークとナイフを使って一口大に切ってパクリ。
そしたらびっくりした顔になって、アマンダさんを見たんだよね。
「これ、さっきのとはまるで違うじゃない。ほんとに同じ材料を使ってるの?」
「ええ。ただ、商業ギルドから頂いた粉の量は、大幅に減らしてあるんですけどね」
ルルモアさんはね、ちょっとはおいしくなってるだろうけど、材料がおんなじならそんなに味は変わらないだろうなぁって思ってたんだって。
「アマンダさんが作ったのも十分柔らかいと思ってたっけど、これを食べるとあれがいかに硬かったのかが解るわね。それにあのパンのお菓子にあった苦みも無くなってるし」
「ええ。どうやらあの苦みは商業ギルドから貰った粉が原因だったようで」
アマンダさんは僕のパンケーキを自分のがどう違うのか、ちゃんとルルモアさんに説明してったんだ。
そしたらね、それを聞いてたルルモアさんがこんなことを言い出したんだよね。
「まぁ。生地をあまり練らない方がこの手のお菓子は柔らかく仕上がるのね。ならさ、この店のオーブンで焼いてるお菓子も、同じなんじゃない?」
「ええ。私も、そう思いますわ」
そしたらアマンダさんもそう思うよって言ったんだけど、それを聞いてた僕は何のことか全く解んなかったんだ。
だから、何のこと? って聞いてみたんだけど、
「そっか。ルディーンはパンケーキ作りに行ってたから食べてないんだっけ」
そしたらアマンダさんたちじゃなくって、なんでかレーア姉ちゃんがお返事してくれたんだよね。
「僕がいないうちに、何か食べたの?」
「うん。ルルモアさんがね、このお菓子屋さんにもパンケーキみたいなお菓子があるんだよって教えてくれたんだ」
レーア姉ちゃんが言ってるパンケーキと同じようなのってのは、型に生地を入れてオーブンで焼いて作るお菓子なんだって。
それを僕がいない間に、みんなで食べたそうなんだ。
「甘いパンみたいなのに、お砂糖がかかってるお菓子なんだよ」
「えー、お姉ちゃんたち、そんなの食べたんだ。いいなぁ」
「ああそれなら、私が今から持ってきますよ」
それを聞いて僕がいいなぁって言ったら、アマンダさんが持ってきてくれるって、お店の方へ。
でね、ちょっとしたらバスケットにそのお菓子を入れて持ってきたくれたんだよ。
「お店には3種類残ってたから、全種類持ってきたわ」
「わぁ、ケーキのお菓子だ」
アマンダさんが持ってきたお菓子は浅くて四角い金型で焼かれたお菓子で、見た感じ前の世界にあったフィナンシェってお菓子みたいな感じ。
でね、さっきレーア姉ちゃんが言ってた溶けたお砂糖がかかってたのの他に、ジャムを乗っけて焼いたのと薄切りにした緑色のナッツがのっかってるのがあったんだ。
「ルディーン君にはこのお砂糖かジャムの味がおすすめかな? こっちの方はあまり甘くないし」
そう言いながらアマンダさんはその二つをお皿にのっけて、僕の前においてくれたんだよね。
だから早速、ジャムの方をパクリ。
「あれ? 思ったより柔らかくないね」
でもね、僕がフィナンシェっぽいって思ってたからなのか、そのお菓子がちょっと硬く感じたんだ。
それを聞いたアマンダさんは、ちょっと苦笑い。
「そうよね。ルディーン君が作ったパンケーキに比べたらちょっと硬すぎるわ。でもね、普通のパンよりは柔らかいのよ、それ」
「そう言えばそっか」
アマンダさんはね、この店のオリジナルだから詳しいレシピは教えられないけど、このお菓子も多分さっきルルモアさんが言った通り、ふるった粉を入れてからあまり練ら無かったらもっと柔らかくなるんじゃないかな? って言うんだよ。
だから僕、
「うん。卵をいっぱいかき混ぜたのに粉を入れたのに、かき混ぜすぎちゃったら膨らまないんもんね」
って、つい言っちゃったんだ。
ところが、それを聞いたアマンダさんは大慌て。
そりゃそうだよね。だってさっき、詳しいレシピは教えられないよって言ったばっかりだもん。
それなのに僕が作り方をしゃべっちゃったもんだから、困っちゃったんだ。
でもね、そんなアマンダさんよりもっと大興奮だったのがレーア姉ちゃんとキャリーナ姉ちゃんだ。
「ルディーン。このお菓子、お家でも作れるの?」
「作れるなら、今度作って! お家でいっぱい食べたいもん!」
パンケーキとおんなじような味だけど、こっちは手に持って簡単に食べられるもんだから、二人ともお家でも食べたいって言うんだよね。
でもね。
「無理だよ。だって僕んち、オーブンがないもん」
そう。このお菓子ってオーブンが無いと作れないんだよね。
だから生地は作れても、このお菓子を作る事は出来ないんだ。
でもね、それを聞いてびっくりしたのがアマンダさん。
「ルディーン君。オーブンが無いから作れないって事は、もしかして君はこの生地を作れるって言うの?」
「うん。いっぱい練らないと硬くなんないからおんなじのは無理だけど、柔らかいのならできるよ」
このお菓子の生地を作れるの? って聞いてきたもんだから作れるよって言ったら、ちょっとこっち来てってまた厨房に引っ張ってかれちゃったんだ。
さっきのお菓子ってアマンダさんが考えたものだったらしくって、それをちょっと食べただけで作り方が解ったって僕が言ったもんだから、それを確かめてみたいんだって。
「ルディーン君。悪いんだけど、本当に同じものが作れるのかどうか、私に見せてもらえないかな?」
「うん、いいけど……僕、道具が無いと卵をかき混ぜられないよ?」
でもさ、僕んちなら魔道泡だて器があるから簡単に作れるけど、ここだと僕じゃ卵を泡立てる事ができないんだよね。
だからそう言ったんだけど、
「ああそうか。じゃあ、横で見ながら私に作り方を指示してもらえるかな? そうすれば同じか解るもの」
そしたらアマンダさんが作るから、僕の思いついた作り方だけ教えてだって。
だから僕、それならいいよってお返事したんだ。
さっきは僕、フィナンシェみたいだって思ったんだけど、その作り方なんて知らないんだよね。
だから僕が知ってるお菓子の作り方を教えたんだ。
そのお菓子って言うのは、スポンジケーキ。
卵の白身をいっぱいかき混ぜて泡立てないとダメだからアマンダさんはとっても大変そうだったし、溶かしたバターもないから思ったのとちょっと違うもんができちゃったけど、ちゃんとお水じゃなくって牛乳を入れたもんだからそこそこおいしくできたって思うんだよね。
「まさか、こんなものが出来上がるなんて……」
でね、それを型に入れて焼いたのを食べたアマンダさんは、何でかしょんぼりしちゃったんだよ。
だから僕、どうしたの? って聞いたんだけど、そしたらアマンダさんは、
「これはもう、全く別のお菓子ですもの。この店で出すわけにはいかないわ」
だって。
そう言えばフィナンシェとスポンジケーキって違うもんだよね。
って事は僕、さっき作り方が解るよって言ったけど、解って無かったって事だよね?
「ごめんなさい」
「何でルディーン君が謝るの?」
「だって僕、さっき作り方が解るって言ったのに、別のができちゃったんでしょ? だったら嘘ついたって事だもん。お母さんが言ってたよ。うそをついたらちゃんと謝んないとダメだって。だからごめんなさい」
嘘は悪い事だもんね。
だから僕、ごめんなさいって謝ったんだけど、そしたらアマンダさんがもっとしょんぼりしちゃったんだ。
なんでかなぁ?
プロである自分が考えたお菓子より、ルディーン君がその場で考えた(とアマンダさんが思っている)お菓子の方がはるかにおいしかったのですから、がっくり来てしまうのは仕方ないですよね。
その上ルディーン君は、バターが入ってないからあんまりおいしくできなかったなぁなんて思ってるし。